大家さんのこと。
青年座の大家仁志さんが亡くなった。
報せを受けてすぐには言葉にできない想いがずっとあった。
今でもまだ整理がつかない。僕なんかよりずっと哀しい人も悔しい人もいるはずだ。
でも、大家さんのことはきちんと言葉にしたい。残したいと思って。
大家さんとは今から4年前の夏、青年座60周年記念Act3Dという企画の1本、
「UNIQUE NESS」の作演出をさせてもらった時にご一緒した。
ネッシーの写真を撮った関係者、ハロルド・グレイという主人公
を演じてくださったのが大家さん。
歴史ある新劇の皆さんの中で関西の小劇場からきた僕はかなり気負っていた。
今思えば全てが足りていなかった僕に、
「俺は早川くんの言った通りにやってみるよ。ついていくよ」
と言ってくださった言葉が忘れられない。
病人の役なのに、ある日の稽古場に真っ黒に日焼けした姿で現れた大家さん。
「河川敷でホン読んでたんだよ」と嘘か本当か分からないことを照れ臭そうに言っていたが、
本番、そこにいたのはハロルド・グレイトいう病に臥せた主人公その人だった。
その後も大家さんの出るお芝居はなるべく観に行った。
面会に行くと開口一番「俺、どうだった?」といつも聞いてくる大家さん。
自分のことが大好きな人なんだと思っていたが、今思えばそれはちょっと違うのかもしれない。
自分以上に芝居のことが好きだから、自分の芝居がきちんと作品の中で
成立しているのか確認をしたかったんじゃないだろうか。
そういえば、稽古終わりにダメ出し(青年座ではチェックと呼んでいた)をしても
嫌な顔一つせず、「そうやってどんどん言って欲しいんだよ」と嬉しそうに、
そしてギラギラと輝いていた。
こんな若輩の僕を一人の演出家としてちゃんと見てくれていた。
一昨年、旅公演で近くまで来たからと言って劇団の公演を
大阪までわざわざ観に来てくれたことがあった。
あんなに嬉しいことはなかった。僕は大家さんや、青年座でご一緒した
大好きな俳優さんに褒めてもらいたくて、あれから演劇を作っているかもしれない。
東京に行ったら、たくさん演劇の話をするつもりだった。
またいつかご一緒したいと夢を見ていた。
本当に夢になってしまった。
だからこれからは、大家さんに「俺、出たかったな」と
悔しがってもらえるような作品を僕は作ろうと思う。
これだけ演劇を愛さなくちゃいけないんだ。向き合わなくちゃいけないんだと
いう例として大家さんのことを、後輩たちに話したりしている。
大家さんのこと、大家仁志という俳優のこと、
これからも語っていこう。
演劇は儚い。
終わっても何の形も残らない。
でも、そこにあったことがどんどん繋がっていく。
大家さんはそんな、演劇そのものだった。
大家さん、ありがとうございました。
また、どこかで。